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改造オープンG# (YFL814W)

2022.10.19
リペアの小窓

今回は「Eメカ取り付け」、そもそもEメカとは何か?皆さん、いかがですか?

「高音のEが出にくいのを助ける補助キィ」と思われている方も多いと思いますね。確かにその点は否定できません。では何故この音が出にくいのか?

 現在の楽器はヴェーム式と言ってドイツのテオバルト・ヴェームが発明した物というのはフルート吹きなら誰でも知っていますね。ヴェームの理想とした楽器のE音は実はこのEメカで押さえられる構造だったのです。「オープンG#」と言って、今の裏G#音孔の無いものでした。Gキィが分離し、G#キィは常にオープンでG#E♭以外は押さえてクローズにするのです。つまり、高音のE音は小指(G#)を塞ぐのが正式な運指でした。この小指の操作が複雑?との事で表G#の代わりに裏G#を備える事によって今の構造になりました。その結果、E音を出すにはEメカを付けないと出しにくいと言う現象が起こったのです。

 

Ⅰ改造 オープンG#化

 楽器:ヤマハ YFL-814W/木製、オフセットカヴァード、Eメカ付き

 方法:音孔を穴埋めし、メカニズムを製作

    ①穴埋め 木材(グラナディラ)を穴径に合わせ加工(φ12.6)

         先端を管体内形状に合わせ整形(R9.5 偏芯)

         高さを音孔上面に合わせ整形

         接着(エポキシ系接着剤)、管体内に凹凸が無い様注意

         上面を音孔裾の高さまで切削

         音孔上部を穴埋めの為、木材を円筒に整形、高さは

管体外径程度

接着(エポキシ系接着剤)、乾燥後管体外径に合わせ整形

    ②キィ製作

         Eメカ付きであったため、Gキィ((No.10)はそのまま使い

         G#キィのみ製作、カップはマスターズ製を使用

         キィは銀板から削出して製作

           音孔とポストの関係を測定、その位置に合うよう形状を設計、材料に形状をケガク

           先に鍵管用の穴φ3.5をボール盤で穴明け

           弓鋸で形状を切り出し、ヤスリで整形

           G#レバーは現行品から取り外し再利用

           カップに皿台を入れ管体に組み込む

           製作したウデ(No.9)を鍵管を入れ管体にセット

           カップ形状にヤスリを使って削り込み現合加工

           カップとウデのロウ付け:皿ロウ付け治具にセットし

           管体と同じ位置に合わせロウ付け

           鍵管を新規に用意し、仮寸法に切断、ウデをセットし管体に組み込む(音孔の位置に合わせロウ付け)

           No.10と製作したNo.9を管体に組み鍵管の長さ合わせをする

 

G#レバーをNo,9No.10のセンターに来るようセットし、ワイヤーで固定(高さを合わせる)

位置がずれないよう外し、レバーをロウ付け

ケリ(バネ掛け)を同時にロウ付け(角度注意)

メネジ取り付け 半田付けし研磨

      ③Eメカ除去

           Eメカ腕の先端部分をカットし整形、磨く

      ④調整

           No.9にタンポを入れ合わせ、全体を調整する

      ⑤完成

お客さんの所感

  メーカーに問い合わせたところ、この楽器は新規の注文でもopenG#オプションは無理とのことでしたので、中古で購入したものをマスターズで改造していただきました。


 この木管は薄管なので、裏G#の穴をきれいに塞ぐことができるか、塞げたとしても管の振動が妨げられ鳴りが悪くなるのではないか、closedG#のスケールのままでは音程が暴れるのではないか、などと心配しましたが、全て杞憂でした。塞いだ跡は木目が違うので分かりますが、手で触っても全く継ぎ目は感じられず、仕事の確かさに驚嘆しました。また塞いだ部分が完全に周囲の木材と同じ剛性で一体化しているようで、ここで響きがストップしている感じはしません。


 肝心の音ですが、オリジナルの鳴りの良さを損なわずに、第2~3オクターブの鳴りにくい音、つながりが悪い音がほぼ消えて、音の組成、方向性が揃った感じになりました。また全音域のフラッターやトレモロ、木管では鳴りにくいと感じた4オクターブ(Fまで)の発音・つながりも楽になりました。極端に音程がとりにくくなる音もないようです(もともと金属管に比べて裏G#孔のチムニーが非常に低かったので、影響が少ないのかもしれません)。closedG#特有の、独特の陰影襞や、音色の多様性は良くも悪くも後退し、より屈託のない響きにはなりましたが(カヴァードということもあり、それでも底が抜けすぎない音にはとどまっていると思います)。


 操作性に関しては、もともとマスターズさんの open G#(銀管)を使っていたこともあり、違和感はありません。

 音量は明らかに増え、ムキにならなくても、必要な分だけリニアに増やせる感じです。もともとの音色のコシの強さ(他の楽器の音色の中に全て溶けてしまわない)と相まって、他の楽器(クラリネットや弦楽器)に負けない表現力を手に入れたのではないかとわくわくしています。今回open

G#にしたことで、ヴァイオリンのようにすっと素直に音が出るようになり、薄い木管の良さがより生かせるようになったのではないかと思います。管楽器なのに、一瞬弦楽器を演奏しているような響きにはっとすることがあります。


 新規にopen G#の木管を注文するのに比べ、すでに歌口が慣れた楽器で、費用、納期(10日ほど)も大幅に節約できたという面もとても助かりました。大変満足しております。

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