ピッコロ:ノックピンレスシステム-2
2010年6月3日
皆様こんにちは
フルートとピッコロの製作を担当している清水章智です。
前回5/12公開の 「ピッコロ:ノックピンレスシステム」 の続きとしまして
マスターメイドピッコロのメカニズムについて説明をしたいと思います。
~~前回のあらすじ~~
フルートやピッコロには、手で直接押さえる箇所から離れた場所にあるカップを動かす必要があり、その動きを可能にしたのがノックピンを使用した2重パイプ構造です。しかし、ノックピンは芯金にダメージを与えてしまうと言う面も持っています。そこで、フルートマスターズではノックピンを一切使わずに動きを伝える方法を採用してきました。それはもちろんピッコロにも受け継がれています。小さなピッコロではたして、どのように実現しているのか…。
~~右手編~~
右手で操作する部分(小指は除く)のカップを仮に次のように呼ぶ事とします。
○薬指で押さえるカップ=D
○中指で押さえるカップ=E
○人差し指で押さえるカップ=F
○Fの隣のカップ=F♯
フルートやピッコロをお持ちの方は手にとって動かしてみるとお分かりかと思いますが、
F♯のカップは直接手で動かす事はしませんがD ・ E ・ F の3つのどれを押さえても一緒に動きます。
特にDとEはF♯から離れており、動きを伝えるためには工夫が必要です。
まずは、DとEの間に連絡板と言う部品を設けてD・Eそれぞれの動きを受け止める構造にします。
一般的なノックピン方式の場合は、この連絡板と芯金をノックピン2本で打ち抜き、F♯キィもノックピンで芯金と固定する事で
連絡板の回転運動を芯金を介してF♯キィに伝えています。これならとてもシンプルなメカニズムで実現が可能です。
しかしFMCでは、直径わずか2mmほどの細い芯金に穴を開け、楔を打ち込む事で芯金に与えると思われるダメージや、芯金やキィを貫通させる穴を開けることで
汗などの水分や汚れがキィパイプの内部に侵入する事でおきる可能性のある弊害を出来るだけ未然に防ぎたいと考えました。
そこで採用されたのが、連絡板とF♯のカップをブリッヂでつなぐ方法です。
つまりこれで一つのキィです(上図)。これならば、当然芯金には一切ダメージを与えず、連絡板の動きをF♯に伝える事が出来ます。
動きを伝える発想だけを考えればむしろこの方が単純かもしれません。
しかしただでさえスペースの狭いピッコロではこのブリッヂの回転運動を確保する事は容易ではありません。(下図参照)
上図をご覧のように、ブリッヂが一番下に降りたときのバネ立てとのクリアランスを確保するためにバネ立てをえぐるような形状にしてあります。
ところが、単純にバネ立てを削ってしまうとバネ立ての強度を保つ事が出来ません。また、バネ立てそのものを後ろにずらして立てる事はバネの平行が保てず好ましくありません。
つまり、ブリッヂは出来る限り高い位置にしておきたい訳です。
しかし、逆にブリッヂを高くすると、今度はFの裏に充分なスペースを確保できません。
例えばFを押さえた時のキィノイズの原因になるほか、Fの裏を削って薄くせざるを得ない状況になってしまいます。
これらの問題を解決する切り札は企業秘密で具体的には明かせませんが、
マスターズピッコロは今までハンドメイドフルートを作り続けてきたFMCの知識と技術でこの問題を乗り越えています。
次回は左手とトリルキィについて掲載したいと思います。
投稿者:清水章智